スペインサッカーへの興味は、必然的にスペインの強烈な地域アイデンティティへ行き着くし、当然ながらそれはヨーロッパの近代史に行き当たるわけで、世界史の時間を美術に充ててた俺*1にはまったくもって守備範囲外。そこで、ここ一、二ヶ月、スペイン内戦*2に関する書籍を集中的に読んだり、この戦争を背景に持つ映画*3などを見てるんだけど、ムービープラスエアチェックしたままだった「蝶の舌」をきょうは鑑賞。

いかにも"シネスイッチ銀座"上映作品らしい、ハートウォーミングなエピソードがテンポよく繋がれていくけれど(3つの短編小説がひとつの脚本に織り込まれている)、物語と平行して、ひそやかに鳴り続けていた"基底音"は、ラスト寸前で一気にそのボリュームを上げる。ラストシーンはたしかに衝撃的で、誰しもの胸を打つだろう。しかし三年の長きにも渡って、スペイン全土で繰り広げられた内戦はここがその始まりだ。隣人同士が憎しみあい、疑い、殺しあった、あまりに悲惨な戦いのプロローグにすぎなかった。もちろん映画の主人公であるモンチョ(8才の男の子)がその後、どのような人生を辿ったかは語られない。だからこそ余計に心はギリギリと軋み、安易に涙を流すわけにはいかないのだ。

*1:行ってた高校の正式なカリキュラムです

*2:僕なりに解説してみます。まず第一次大戦後のスペインは軍事政権が後ろ盾になる形で一応、君主制を維持していました。それを打倒すべく、立ち上がった共和主義者たちがいったんは政権奪取に成功するも、そうはいくかとアフリカに侵攻していたスペイン軍の一部勢力が反乱。このフランコ将軍率いる反乱軍をイタリアやドイツといったファシスト政権が秘密裏にサポート(表向き、欧州諸国は不可侵条約を締結していたから)。ピカソの「ゲルニカ」はこの流れでドイツ軍が行ったゲルニカ地方への無差別爆撃がモチーフになってる、というのは皆さんもご存知でしょう。で、共和国サイドはというと、これが一枚岩じゃなかった。王制を打倒した後の理想国家を「共産主義」の中に見たコミュニストたちと、独自のユートピア思想に基づくアナーキストたちが反フランコという旗印のもとで一応は共闘してたわけ。で、コミュニスト側をサポートしたのは、当然、ロシア。ロシアから届く武器や物資、戦闘のノウハウなんかはコミュニストたちの方に偏って集まるから、アナーキストは常に冷や飯を食わされる状態だった、と。結局、それが内ゲバ的な争いへと発展し、ついにスペインは三つ巴の戦いになる。もちろん三つ巴とはいえ、フランコ側は後ろ盾も強力だわ、相手は仲間割れしてるわで、結局スペイン全土を完全掌握した、と。強力なファシスト政権を樹立したフランコはその後、おカミに楯ついた人々を問答無用で虐殺したり、それぞれの地方に根付く多様な文化を弾圧したりと、やりたい放題。フランコの独裁は第二次大戦はおろか、彼が死んだ1975年まで続きました。えーっと、ちなみに上記の文章はすべて僕の頭の中にある知識だけで書いたので、これを書くために特に資料をあたったわけではありません。より詳細で正確な情報はネットでいくらでも調べられますので、興味がわいた方は各自で調査!

*3:ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」や「エル・スール」「ミツバチのささやき」も有名ですね。そういえばこないだ、ロバート・キャパの伝記映画「キャパ・イン・ラブ・アンド・ウォー」も見たんだけど、めちゃくちゃ面白かったな。たとえば"ロバート・キャパ"という名前はカメラマンとしてのキャリア初期、キャパが仕事欲しさで付けた芸名。当時売れっ子だったロバート・キャプラをもじったもので、アメリカから来た高名な写真家として、パリの出版社や新聞社に作品を持ち込んだ時の名残、だとか。また、戦場写真(ライフルを持った兵士がアタマを打ち抜かれて、のけぞる瞬間の写真、あれはスペイン内戦で撮影された)のスクープで名を馳せた後、かのイングリッド・バーグマンと不倫関係になり、彼女と共にハリウッドへ行くも破局ヒッチコック作品「裏窓」の主人公、ジェームス・スチュワートが演じた車いすのカメラマンはバーグマンにくっついて、ヒッチコックの現場に出入りしていたキャパがモデルだった、というトリヴィアがこの映画で紹介されてます。