多様なアートフォームの中で、特に現代美術のフィールドにおいて、僕がもっとも好むのはアブストラクト・ペインターたち・・・ジャクソン・ポロックゲルハルト・リヒターマーク・ロスコ、ロバート・ライマンといった芸術家なのですが、最近、レコード整理の合間にふとあるジャケットを眺めていて、とても好奇心を刺激された作家がいます。そのレコードとは(挙げるのもちょっと恥ずかしい)かの有名なスタン・ゲッツチャーリー・バードのアルバム「Jazz Samba」(1962年)、スタンとジョアン・ジルベルトの「Getz/Gilbert」(1963年)の二枚。言うまでもなく両方のレコードには同じ作家が描いたと思われる、明るい色調の抽象絵画がフィーチャーされてますよね。

その絵を描いたのがOlga Albizu・・・プエルトリコ出身の女性アーティストです。彼女は1924年ポンセ*1で生まれ、プエルトリコの大学で油絵を学んだ後、ニューヨークとパリへ留学。1953年にふたたびニューヨークへ戻って終生の活動拠点とし、ちょうど今年7月30日に亡くなっていました。

彼女のことをいろいろと調べてみた結果、母国での評価は非常に高いことがわかったのですが、世界に目を向けると、少なくとも現時点において、それほど大きな評価を受けている様子は伺えません。しかし先ほど挙げた二つのアルバム以外にも、たとえばスタン・ゲッツゲイリー・マクファーランドと組んで、1962年にリリースした「Big Band Bossa Nova」や、ビル・エヴァンスの「Trio 64」など、Verveからリリースされた多くのジャケットで彼女の絵が使われた60年代前半というのは、もっとも精力的にオルガが展覧会を行っていた時期と重なります。国は違えど、同じラテンアメリカから輸入されたボサノヴァのイメージが、彼女の大らかでポップな作風と重なった可能性は高いでしょう。

アブストラクト・ペインティングに惹かれるようになったのは、比較的最近のことです。アブストラクト・ペインティングは例えるなら<目で聴く音楽のような>絵画です。音が重なり合って、ハーモナイズするように、塗り重ねられた絵の具がキャンバスの上でひとつのアンサンブルを形成し、調和しています。アブストラクト・ペインティングを前にして、小難しい"意図"を見出す努力をする必要はまったくありません。壁のシミや天井の木目が人の顔に見えるように、とかく僕らは視覚からなんらかの"意味"を見つけようと躍起になる<サガ>がありますが、もともと何かを具象として表現したいのであれば、わざわざ抽象的にする意味なんて無いですよね? でも僕らの心の中には、言葉や意味が届かない場所があって、そこには僕らが生きていくための、とても大事な何かを含んでいます。そこへ時々アクセスするために、言葉のない音楽や抽象的な絵画のような<優れた乗り物>が必要なんじゃないかと僕は思うのです。オルガの絵が連れて行ってくれる場所は、たしかに心の底にあるんだけど、明るくてあたたかで居心地がすごくよさそうですよね。


ゲッツ/ジルベルト
Big Band Bossa Nova
Jazz Samba
トリオ’64

*1:首都サンファンに次ぐ第二の都市。芸術の街として知られる。