5年前の9月11日(火曜日)。都心で仕事を終え、渋谷から井の頭線で当時住まいのあった吉祥寺駅に戻ってきた。改札を抜けた直後、ボクからかけたんだか、向こうからかかってきたかは忘れたんだけど、永田章浩さん*1とケイタイで話し始めるやいなや、「ミズモッちゃん、いますぐTVを見てっ!」と、彼は甲高い声で叫んだ(ああ・・・ということはたぶんなんらかの用事でボクからかけたんだな)。まま、とにかく永田さんから世界貿易センターに飛行機が突っこんだことを聞いたんだ。もちろんまだ外だし、深夜にさしかかるくらいの時間だから、どっかの店先にあるテレビとか野外ビジョンで見れるわけもない。「えあっ?」とか「んあ!」とか、多分なんらかマヌケなリアクションはしたと思うんだが、「ビルニリョカクキガツッコム」なんて言葉だけで、アタマの中に具体的なイメージが浮かぶはずもない。
ウチまでは歩いて10分くらい。部屋のテレビで目にしたニューヨークからのライブ映像は、やたらくっきりした青空。ニューヨークはなんでこんなに晴れてるんだろう?と、ぼくはそこばかり気になっていたと思う。*2
1994年の11月、ボクはニューヨークに住んでた友人のウチへ転がり込んで、一週間ばかり滞在した。WTCの姿はたぶんJFKからマンハッタンへ向かうタクシーの中から見たはずだ(記憶はない)。明け方までクラブに行って*3、昼過ぎまで寝て、午後いっぱい市内をウロウロし*4、夜になったらクラブに行く・・・その繰り返し。だからボクにとってニューヨークは夜の闇か、午後のすこし曇った空か、夕景のイメージ。まるでカリフォルニアやハワイで見るような、テレビの中の青空と、記憶のギャップが凄くて、事故そのもののリアリティが完璧に損なわれたまま、朝までテレビを眺め続けた。
アメリカ政府が意図的にテロの実行を見逃したとか、実はあの旅客機やWTC内に爆弾が搭載されていたとか、WTC突入直前に飛行機の先端から謎の閃光が走っている映像などを公開している「陰謀説」支持派のサイトも目を通したし、それらを否定するサイトも読んでみた。*5
911に限らず、環境問題を糾弾するサイトなんかでも、「難しいことはいいから、とにかくこの映像や写真を見て!」と、非常に無邪気な文体で訴えてくる「見て」派閥と、ウンザリするほど膨大なテキストをアップし、論理や具体的なデータを基にして真っ向否定する「読んで」派閥に分かれる。
前者はたいてい「レンズは嘘をつかない」というのが主張のよりどころになっている。しかし写真や映像は恣意的なトリミング、修正、編集などの加工=意図を加えることによって、いくらでも現実を操作できる。そもそも意図のない写真や映像は「表現」たり得ない。普段の暮らしでボクらが眺めている世界だって「視界」という肉体的トリミングによって、主観は成立する。前者には圧倒的にこの視点が欠けている。
後者側は「無邪気派」に再反論の余地を与えない、完璧な論理で看破しようとするあまり、ユーモアというか、エンターテイメント性を極端に欠いている*6。人は論理に魅了されるのではなく、論理の語り口に魅了されるのだが、後者にはその配慮が足りない。論理に自己陶酔していて、セクシーさがないのだ。
ともあれ、永久に両者は歩み寄ることなく、互いの領域で生きていくのだろうし、世界は両論の狭間で苟且(かりそめ)のバランスを保つ。真ん中にあるのは驚くほど凡庸な「世論」だ。
光が強ければ、影も必然的に濃くなる。あの日の青空があまりに鮮やかだったせいで、映像がプレイバックされるたびに人はその影の濃さに怯え、不審のまなざしさえ向けるのだろう。ただ、どちらの側に真実が潜んでるかわからないからこそ、できるだけ長く目をこらしていたいと思う。じきに目は慣れてくる。そのうち光と影の端境あたりに、なにかがぼんやりと浮かんでくるはずだ。

*1:スライドショーをはじめ、みうらじゅんさん仕事で著名なカメラマン。TMVGのアー写(スーツできめてるヤツ)も永田さん仕事。

*2:正確に目標へ突っこむために快晴の日を選んだという説もあったよね。個人的にはハリケーンでも来ない限り、どんな天気でもテロは決行されてたと思う。

*3:マスターズ・アット・ワークがサウンド・ファクトリー・バーでやってたレギュラーパーティ、ジョニー・ヴィシャスとダニー・テナグリアがメインフロア、チルアウトルームをジャイアント・ステップが仕切ってたパーティ(会場はローラースケート場だった)、そしてなんといってもサウンド・ファクトリーでやってたジュニア・ヴァスケスのレギュラーパーティは今でもアリアリと思い出せるほど凄かったな。特に客が。マリファナの煙が充満してて、副流煙だけでスカイハイ。昼近くまでやってた。

*4:主に新譜のレコード屋。ボクが今も使っている青いレコードケースいっぱいに12インチを買って帰った。どこの店でもレコードをバカ買いしてるのは日本人で、現地人は試聴だけで、ほとんど買ってなかった。

*5:適当なキーワードを入れてググれば、イヤほど出てくる。

*6:メッセージがシンプルだけに、前者の方が伝播力は強い。