リヴィングで夕飯を食べていると、遠くからドーンと、低く伸びる音。サッシ越しに南東の方向を見やれば、小指の先ほどの大きさに、小さくキラキラとした光の束。打ち上げ花火。そういえば、今夜は逗子の花火大会だった。これから我が家は八月末まで、週に二、三回のペースで、どこからか花火の音が聞こえる日々だ。
梅雨もまだ明けてないというし、夜ともなれば、気温こそそれなりに下がるけれど、うっすらと湿気を含んでいて、熱帯夜とは違う寝苦しさが。実家からわざわざ送ってもらった、肌に馴染んでいる愛用のタオルケットを、おなかの上にかけて寝たはずが、いつのまにかそれが夏布団に変わっていて、明け方にはその両方がカラダに絡みつき、起きたときにはすっかり蹴飛ばしていて、枕すらベッドに乗っていない。それもこれも、自分の仕業なので、誰かにあたるわけにはいかないんだけど。
こんな季節に、習性のようによく聞いているのは、アラン・トゥーサンの「From A Whisper To A Scream」。1971年発表のセカンドアルバム。マック・レベナックことドクター・ジョンが全面的に参加し、翌年に出るドクターのアルバム「Gumbo」へと、演奏メンバーの多くが引き継がれている。録音はロサンゼルス。1曲目から6曲目までがヴォーカル入りで、7曲目から11曲目までがインスト。僕が持っているCD(P-VINE)には音楽評論家の文屋章さん*1がライナーを執筆されているのだが、僕がこのアルバムでいちばん好きな「Pickles」に関しては「クラシックとゴスペルが交互に現れ正直気持ち悪い」と、なんというか、解説と云うよりも、正直すぎる感想の一言で済ませていて、おもしろい。
アラン・トゥーサンはたしかに「気持ち悪い」。たとえばネヴィル・ブラザースのアーロン・ネヴィルを筆頭に、やたらゴツゴツとした面構えの輩が多いなか(みな腕っぷしも強い)、トゥーサンは見た目も優男風だし、歌声も中性的。「気持ち悪い」と言い切りたくなるのも、むべなるかな、である。ただでさえ複雑な混血(クレオール)文化を持ってるニューオリンズ音楽の要素に、輪をかけて複雑な滋味が含まれることで、かえってソフィスティケイテッドされているのが、彼の作り出した音楽の、重要な魅力なのだ。
せっかくなので、今回僕が持っているソロ作品をぜんぶ引っぱり出してみた。50年代末に録音された「The Wild Sound Of The New Orleans by Tousan」(写真左上)は別として、70年代に連続リリースされたソロ作品は、演奏メンバーや録音環境もさまざまで、実に手を変え品を変え、作られていたことに初めて気がつく。

2nd「From a Whisper to a Scream」(同中央)
ドクター・ジョンが全面参加/LA録音
3rd「Life, Love and Faith」(同右下)
ミーターズが全面参加/ニューオリンズ録音/LA仕上げ
4th「Southern Nights」(同右上)
ミーターズが全面参加/ニューオリンズ録音&仕上げ(ホームスタジオ「Sea-Saint Studio」)
5th「Motion」(同左下)
ジェフ・ポーカロリー・リトナーチャック・レイニーなどウェスト・コーストの腕利きスタジオミュージシャンが大挙演奏/ニューオリンズ録音/LA仕上げ

しかし、どんなメンバー/環境で録られた作品も、先述した「気持ち悪さ」は身を潜めていないのが見事。けっして万人に勧められる音楽ではないけれど、興味の湧いた方はぜひ一度聞いてみてほしい。ハマればとっても「気持ち悪い」ですよ。

*1:秋にブルース・インターアクションズから発売予定の「ニューオリンズ・ミュージック・ガイド・ブック」などを監修している、ニューオリンズ音楽のオーソリティ