長らく暮らした吉祥寺から四年前に引っ越して以来、一度も足を運ぶことの無かった、ある中古レコード店。公園口から程近い、ある雑居ビルの一室に店はある。
その名は「ワン・アンド・オンリー・レコーズ」。
周囲に点在していた他のレコード店は、ことごとく閉店してしまったけれど、レコードマップに載ることもなく、ネット・オークションに出品するでもなく、HPも作らず・・・元よりパソコンすらなく、ひたすらマイペースに商売を続けているこのお店。
あまりにご無沙汰してしまったので、少々照れくさい気持ちもあれど、とりあえずぼくは細い階段を三階まで上って、懐かしい木製のドアを開けました。
(カラーン、コローン)
どうも、お久しぶりです、マスター!
「おお、ミズモト君じゃない。ご無沙汰だねえ。ぜんぜん顔を見せなかったじゃないの。おゲンコ?」
え? ああ、わりとゲンコです。いやあ、四年も来てないのに、ぜんぜん変わらないですね、この店の雰囲気とマスターだけは。
「それって褒め言葉? まあ、ウチの店は流行り廃りにいっさい関係ないレコードばっかり扱ってるし、逆に流行りもんのレコードを探しに来られても困っちゃうからさァ。スロウライフで、ロハスよ、ロハス
あはは。でもまあ、今はぼくが足繁く通わせてもらってた頃に比べても、一般的にこういうレコードが流行ってる・・・なんてことも、ずいぶん見えにくくなってしまいましたもんね。
「へえー、そうなんだ(ボンヤリ)」
えーっと、ところで、マスター。せっかく久しぶりにお邪魔したんで、なにかオススメのレコードを教えてくださいよ。
「ケーオツ、ケーオツ。あ、昨日アメリカのバイヤーから届いたばかりの、超レア盤があるよ。えーっと、あ、これこれ。アダム&ジ・イヴス。モンタナ出身のローカルグループなんだけど」
アダム&ジ・アンツなら知ってますけど、イヴスは知らないなあ。
「アダム・ホフマンって男のワンマンバンドで、これは1974年発売のセカンドアルバム。この後も10枚くらいアルバム出してるんだけど、アダム以外のバンドメンバーは流動的、でもつねに全員女性なんだ」
なるほど、それでイヴスね。
「そうそう。でも結局カルトの教祖みたいになっちゃって、1985年にドラッグ絡みの事件で逮捕されちゃった。で、この人たちは産業革命以降の文化を全否定してるんだよ。歌の内容もほぼそんな感じ。もちろんアコースティックな楽器しか使ってなくて、レコーディングには当時開発されたばかりだった家庭用の太陽光発電機を利用する念の入れよう」
へえー。でも、なんでこれがオススメなんですか?
「レコードを触ればすぐにわかるよ」
ん? なんか妙に白いな。表面はザラザラしてるし。これ、塩化ビニールじゃないですね。
「それ、動物の骨」
えー!
「正確に言うと、家畜の骨。自分たちの牧場で飼ってた牛や豚、鶏や羊といった家畜の骨を粉にして、レコードにしたらしい」
なんともはや罰当たりな。亡くなった人のお骨で仏像つくったりするのは知ってますけど・・・。なんかもう二度と触りたくないかも。
「なに言ってんだよ、ミズモト君。これだけコンディションの良い盤はスミソニアン級のシロモノだし、ほとんど現存しないんだよ。バイオ燃料ならぬ、バイオレコードの先駆けってことで。話の種にどう?」
イヤですよ。ところどころ黒いツブツブが混じってて気持ち悪いし、部屋で聴いてるだけでなにか化けて出そうだし。というか、これって普通にターンテーブルで聴けるんですか?
「いやあ、さすがにそれはやめといたほうがいい。聴くならこっちのほうがいいよ」
なんすか、これ。CDじゃないですか。
「うん、アダム・ホフマンは今「グリーン・アップルス」っていう環境保護団体をやってて、活動資金を集めるために過去のアルバムはぜんぶボーナストラック付きでリイシューされてるから」
じゃあ、そのCDだけでいいです。

★★★★★★★★★★★★

Adam & the eves "King Snake" (Fredelic / 1974)
エレクトリックな楽器やPAを使用したくないという理由で、あのグレイトフル・デッドからの熱烈な共演オファーも拒否したという、アダムと彼の女神たち。このアルバムに収録された「A Green Apple」は環境破壊の進む地球を、萎れた青リンゴになぞらえたメッセージソング。美しい混声ハーモニーで、サイケデリック〜ソフトロックファンからの人気が高い。なお、この「A Green Apple」は彼の運営する環境保護団体の名前に流用されているほか、現在制作中のドキュメンタリー映画「もっと不都合な真実(仮題)」の主題歌として使用されるとかされないとか。