ほーーんとうに暑い日が続きますね。朝も八時とか九時くらいになると、その日のピークじゃないかと思うくらいの体感気温で、思わず皮膚を脱ぎ捨てたくなるほど。
こんな日に限って、トラブルも多く、別の汗もかくし。もうこうなったら風呂にでも入ってサッパリしよう。目に付いた本を一冊手にとり、熱い湯をはった湯船へドブン。

さて、なにはさておいても昨日のつづきを書かなくては。

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大瀧詠一は、ほんとうによく音楽を知っているミュージシャンだ。たぶん彼がだれよりも、いちばんよく音楽を知っているにちがいない、と大瀧の音楽を聴くたびに感心したものだった。もちろん人によっては、それほど大瀧の曲がすきでなく、もっとよく音楽を知っているミュージシャンがほかにいるはずだというかもしれない。
だから大瀧詠一がいちばんよく音楽を知っていると断言することは、よほどしっかりした証拠でもないかぎり、あげ足をとられる結果になるのだ。

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どうですか、ちょっとJ・J氏風の文章だったでしょう?
それもそのはず。これはさっき風呂に入るとき、たまたま手にとった本・・・・・・植草甚一スクラップブック(2)『ヒッチコック万歳!』の巻頭に収められたエッセイ「ヒッチコックは、ほんとうによく映画を知っている」の書き出しの一節を、ヒッチコックを大瀧さんに、監督をミュージシャンに、映画を音楽(と曲)に差し替えただけの文章だからでありまして、無論、これは手を抜きたいからそうしたわけではなく、ぼくが昨日のつづきとして書きたかったことが、このあとに続く文章もひっくるめて、大きなインスピレーションの種として、含まれていたからなのでした。
J・J氏の文章はこのあと、スタンリー・ドーネンという監督が、オードリー・ヘップバーン主演で撮った「シャレード」は、ヒッチコックのやり方をよく勉強したうえで、自分の個性を出そうとしているから好感を受けたけれど、「逆転」という作品はただのヒッチコックのマネにすぎなかったので不愉快になってしまった、とか、ポール・ニューマンの「ノーベル賞*1」を監督したマーク・ロブスンが、「北北西に進路を取れ」でヒッチコックが世間をうならせた演出手法を、そのままマネしていることに腹が立ち、この人への期待がすっかり消え去ってしまった、と続きます。
そして、ヒッチコックがあたえたほんとうにいい影響とは、トリュフォーゴダールクロード・シャブロルといったヌーヴェル・ヴァーグの監督たちの作品に見られ、彼らはみんなヒッチコックの映画をよく勉強し、スタンリー・ドーネンのように器用なマネでもなく、マーク・ロブスンのようにヘタなマネでもなく、どうしたらほんとうにいい映画が作れるかということ、すなわちヒッチコックの精神をつかみとったのだ、とJ・J氏は分析しています。
まさしくぼくがいちかたいさんについて感じてきたこととは、いちかたいさんが大瀧詠一のようなほんとうに音楽をよく知っているミュージシャンから、大瀧詠一の精神をつかみとって、彼自身の音楽を作ってきたことに対して、敬意や清々しさや感銘を受けずにいられない、ということなのです。自分も大瀧詠一のような気持ちで音楽を作ろうと考え、そうした心がまえをいまもって失わずに作り続けてきたこと・・・それは「ヒッチコックのような気持ちで映画をつくろうと三人が考え、そうした心がまえを、いまもって失っていないこと(J・J氏)」と呼応する信条といえるのではないでしょうか。
ちなみにこのアルバム「ホーム・グロウン」には、バンドアレンジされたスタジオ録音、自宅録音風の弾き語り、10年以上前のライブ演奏、などなど録音された時期も、場所もさまざまな音源が詰め込まれた、一種のコンピレーションアルバムとして聴くこともできます。そうしたわけで、ぼくがこれを聴きながら思い出したのは、ほとんどのアルバムがそうした手法で作り上げられたフランク・ザッパや、トッド・ラングレンの「サムシング/エニシング」・・・・・・名曲「I SAW THE LIGHT」で幕を開ける25曲入りの二枚組アルバムには、なんと高校時代のバンド演奏まで収録されている(!)・・・・・・だったのですが、ザッパもトッドも、多様なバックグラウンドのなかから、その「精神」をつかみとって自らの作品づくりに血肉として生かしてきたポップミュージックの怪物たちです。
そして云うまでもなく、大瀧詠一も日本のモンスターです。ザッパがエドガー・ヴァレーズの影響下にある騒音音楽とストレートなドゥーワップをひとつのアルバム内に同居させても、トッドがソウル・ミュージックへの愛をたぎらせながら、グランド・ファンク・レイルロードをプロデュースしても、大瀧さんが音頭とフィル・スペクターサウンドを共存させても、違和感を感じるどころか、拍手喝采を送らずにいられないのは、彼らの作品につかみとった「精神」がつまっていること・・・・・・すなわち彼らがほんとうによく音楽を知っているミュージシャンだと断言できる、確実な証拠といえるでしょう。

つまり、大瀧詠一ヒッチコックだとするなら、いちかたいとしまさはフランスのヌーヴェル・ヴァーグの監督たちなのだ・・・・・・と、決まったところで。
みなさん、いちかたいさんの「ホーム・グロウン」をぜひ聴いてみてくださいね。

※残念ながら、アマゾンでの取り扱いはないようですが、@TOWERやHMVのオンラインショップでは取り扱っています。またハイファイ・レコード・ストア、ペット・サウンズ、ディスクユニオンでは各店オリジナルの特典CDが付くようなので、各自調査!

ヒッチコック万歳! (植草甚一スクラップ・ブック)

ヒッチコック万歳! (植草甚一スクラップ・ブック)

大瀧詠一

大瀧詠一

いたち野郎(紙ジャケット仕様)

いたち野郎(紙ジャケット仕様)

*1:ノーベル賞」はこの映画の原作が「小説ノーベル賞」という題名で邦訳刊行されていたことから、植草さんが便宜上命名した仮のタイトルで、正式な日本公開時には「逆転」という邦題が付けられました。ちなみに原題は「The Prize」です。