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ここ数日、ぼくの脳みその中だけでスクスクと更新作業をしてたのですが(エア・ブログ)、残念ながら皆さんには読んでもらえていないご様子。
仕方がないのでなんか書き始めてみます。
エー、死んで花実は咲くものか、などと申しますが、著名な作家、音楽家、芸術家などはたとえ死んでもそう易々と眠らせてはくれません。墓場荒らしのような輩がどこからともなくウヨウヨと沸いてきて、やれ遺稿だ遺作だと次から次へとネタ探し。あれやこれやを商売に変えてしまいます。まあ、それでもファン心理というのは哀しいもので、そうしたものに飛びついてしまうのがサガでございますし、残された遺族にとっても貴重な収入源になるわけですから、双方のニーズに見合った商行為であることは間違いありません。
たとえば昨年の春に自宅で転倒して、頭部を強打。息子のマークさん曰く「貴重な脳みそという卵をかき混ぜて、二度と元に戻らなかった」のは、かのカート・ヴォネガット。彼の作品が没後一年半を経て、続々と文庫で復刊されています。彼の脳みそがスクランブルエッグになった直後に書いたぼくのエントリーによれば、当時は十冊に満たないタイトルしか手に入らなかったのが、今ではハヤカワだけで21タイトル、他の出版社から出ている「国のない男」や池澤夏樹翻訳版の「母なる夜 (白水Uブックス (56))」まで含めれば、全23タイトル(22作品)が入手可能。
長編は全部OK、残るは二冊ほどのエッセイ集・・・そのうち一冊は未訳だけど、ほぼすべての本がなにかしらの手段で手に入るわけだ。ファンとしては嬉しいやら哀しいやら(正確には「哀しいやら嬉しいやら」)。
彼が名物キャラクターであるキルゴア・トラウトを殺すほど忌み嫌っていたブッシュの退陣(先ほどのエントリー参照)と時を同じくしてやってきた、没後のヴォネガットフィーバー。作品が出揃ったことで、全景が眺めやすくなったことを素直に喜びつつ、いつ何時また入手が難しくなるかわからないので、この際ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?
とはいえ、やはりとっつきの一冊をどれにするかは、未読の人にとっては難しい選択だと思います。そこでブルータスの映画特集よろしく、ぼくがにわか「ヴォネガット・コンシェルジュ」となってみます。パターンは全部で三つ。重複しない作品をそれぞれ五タイトル選びました。順不同ではなく、上から下への並びも意識してありますので、あしからず。
パターンA。まずは正攻法で「代表作」編から行ってみましょうか。

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
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ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)
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一般的にも、作者本人にも評価が高い(エッセイ「パームサンデー」のなかで自著のランク付けを行っている)作品を並べました。実際にぼくも(正確には覚えてないけれど)たしかこの順番で読み進めたはず。*1
パターンB。他人(ひと)の評価はどうあれ「俺は好きだよ!」と力強くオススメできる作品編。

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スラップスティック―または、もう孤独じゃない! (ハヤカワ文庫 SF 528)
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四冊の長編に一冊の短編集、主に晩年のものですね。小説と云うよりも、ほとんど「与太話」のような作品も中にはあるけど、そこは名手ヴォネガット。くだらねえなあと思いつつ、最後までキッチリ読ませてくれます。落語の志ん生、音楽で云えばセロニアス・モンクやジョアン・ジルベルトのような、と喩えるのは決してオーバーじゃないはず。「そっちが気持ちよく書いてくれるなら、俺も気持ちよく読む」というヨカ塩梅。クスクス笑えて、彼の芸術論、政治論、終末論、人生訓など、さまざまな彼のエッセンス(主張)も吸収できます。
パターンCはエッセイ編。実はこれが一番おすすめかも。

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とにかく彼のエッセイは素晴らしいです。小説家としてのヴォネガットは一流ですが、エッセイの腕前は超一流です。おまけにスピーチの達人でもあるらしいのですが(YouTubeでも数多く見られます)残念ながらぼくの英語力ではイマイチよく理解りません。
で、これが一番のおすすめなんて書きつつ、最後にこのパターンを紹介するのは理由があって、「パームサンデー」は今なお絶版状態で入手困難なこと、そして最近出たばかりの「追憶のハルマゲドン」は彼の死後に出版され、未発表のエッセイと短編小説がちりばめられた変則的な構成であり、ハードカバーなので値段もちっとばかし高いのです(同じく「国のない男」もハードカバーだけど、亡くなった直後にタイミング良く出版され、よく売れたせいか大型の古書店でよく見かけます)。
とはいえ、息子マークの追悼文(先ほど引用した「卵」のくだりもここから)がたまらなく泣かせるし、亡くなる二週間後に予定していた講演のための原稿(結果的にこれは息子マークが代読)や、第二次大戦に従軍していたヴォネガットが、戦地から自分の無事を家族に知らせた手紙はぜひ読んで欲しいです。
そういえば彼が"最期"の講演のために書いた原稿のなかで「私の生きてきた時代で最高のアメリカ人」として、フランクリン・デラノ・ローズベルト(第32代大統領/民主党)とマーティン・ルーサー・キングを挙げてます。きしくもその二人の資質を受け継ぐと称されているのがバラク・オバマ。ヴォネガットが生きてたら、彼をどんな風に評し、どんな文章を書くだろうか? と、想像しないではいられません。ブッシュ相手のようにコキおろすことも、はたまたジョークの種にもしづらいことを、むしろ残念がってるかもしれないけどね。
まま、結果的に五冊×三パターンも紹介したせいで、ほぼ全部のタイトルを入れてしまいましたが、一度嵌れば病みつきになるのは目に見えてるし、どっちみち全部の作品を読みたくなるはずです。
「まだつづきはある。つづきはつねにある」(「ジェイルバード」)
まあ、そういうことだ。