一足の靴が一個の人間を運んで湘南を出た。一個の人間はふわふわとして落ち着かぬ男だ。彼は面の皮も厚く無い、大胆でも無い。而も彼をして少しく重味あり大量あるが如く見せしむるものは、その厚皮な、形の大きい『一足の靴』の御陰だ。

・・・と、いうことで。
先週末、熊本に行って、一泊して、帰ってきてしまいました。命に別状がないレベルのオッ、オー・ビー・イン・トラブルが発生し、ああこりゃもうイッパクしなきゃね的不測の事態にならんもんか、と空港に向かう車中で祈ってみたけど、それはやっぱり無駄な抵抗。飛行機はケニー・Gのソプラノサックスくらいつまらな・・・、いや、スムースにランディング。*1
で、昨日はブログどころの騒ぎでなく、終日ぶっ倒れておったのですが、自分用の土産として購入した「誉の陣太鼓」を食べ切らないうちに、バリバリッと旅の記録を書いておきたいと思います。またも長くなるよ!


<二年ぶり>
悪天候(強風)の所為で、乗り心地は最悪だった往きのフライト。軽い乗り物酔いでふらつきつつ到着ゲートを出ると、今回のオーガナイザーであり、今春めでたく六周年を迎えるPEANUTS RECORDS主宰、井手けーご君が笑顔で出迎えてくれる。パーティの件だけでなく、Tシャツ製作のやりとり、ミックスCDに関する諸連絡などなどで、この二年間というもの、かなり密な関係を築いてたから、実際に会うのが二回目というのは不思議。
で、さっそく市内へ・・・というよりも、ぼくがしつこいくらい各所でプッシュしまくっている「みのや」へ直行しました。

「みのや」は日曜定休なので、寄れるチャンスは今回このタイミングだけ。熊本に旅して「みのや」で食べないのは、ルーブルに行ってモナリザ見ないのと同義。井手君に至っては、今週四回目の来店(バカ!)。ロケーションの良さや佇まいにも得難い魅力があるこの店に、好感を抱かない人はまずいないんじゃないかなあ。
ぼくは豆天+丸天(まめまる)+かしわ・・・これは鶏の炊き込みごはんです。井手君は肉うどんに豆天をトッピング(にくまめ)。
稲庭ほどじゃないけど、すこし細めで口当たりのやわらかい麺が特徴で、かつお&昆布のお出汁も麺とおなじくやわらかい。讃岐とも関西風とも違う、これぞ九州うどんのマスターピース。われわれの飽くなき「みのや愛」がテレパシーで届いたか、美人女将が「うどんのかりんとう」をお土産にくださった。一生、通います!<商魂伝承>

食後の腹ごなし・・・とばかりに、上通りのアーケードが切れたところ、すなわちレコ屋「ウッドペッカー」の目の前にある古本屋「河島書店」へ。ここでいきなりの大ヒット。まず何年来で探してた安岡章太郎アメリカ感情旅行」(岩波新書)ほか、持ってなかった開高さんの文庫本など数冊を、店頭のゾッキ本コーナーにて各100円でゲット。そしてそして店内では年明け最大の収穫に遭遇。
レコード卸の老舗「星光堂」の創業社長である飯原正信が自らのレコード屋人生60年を振り返った「商魂 レコード一筋六十年」(実業之日本社)。帯には「レコード流通に革命を巻き起こす巨大な組織。それは一人の平凡な男の平凡な半生から生まれた。読むものを勇気づける異色のレコード史」とある。これは!と電流が走り、筺から本体をズルッと引き出した瞬間、目に飛び込んできたのは、所謂、経営雑誌系のタッチで描かれた社長の肖像。背後には空飛ぶレコード盤。裏表紙にはさらに大きなレコードのイラストがあって、レーベル面には「商魂」の二文字。なるほど、要するに表紙カバー全体がレコジャケ(と中身のレコード)になってるのね。ジャケットの右隅にはご丁寧に「SEIKOHDO STEREO」って書いてあるし。
しかし、価格1,000円はちょっと悩むプライス。ですが、これはもうネタにゃうってつけのブツであり、ここへ連れてきてくれたのが、誰あろうレコード商の井手君ということで、PEANUTS RECORDSが星光堂のような"巨大な組織"へ発展しますように、という願いを込め、お賽銭のつもりで購入決定。ほかには、つくば万博の公式ガイドブックなどを抜きました。

ほかにも二軒ほどの古書店と、レコ屋などもチラッと覗きましたが、思うような収穫はなく、一旦ホテルへ。その後、今夜の準備などで井手君は予定が詰まってたので、ひとりでふたたび市内へ戻る。


<五足の靴>
前回の熊本ツアーで仲良くなった友人へ連絡してお茶に誘い、到着を待つあいだ、上通りにある「長崎書店」へ。以前は古めかしい町の本屋という印象だったのが、すっかり"スターバックス"調に改装されていました。見通しのきくスッキリとした店内。蔵書量こそ多くないけれど、ここそこのコーナーでプッシュされている本が目新しく、小気味良い。
文庫棚で目にとまったのが、『五足の靴』という岩波文庫の一冊。著者名は「五人づれ」。五人づれとは、文芸誌『明星』を主宰した与謝野鉄幹と、その同人だった北原白秋ら四人。彼らが五足の靴を連ねて、明治四十年の七月から一ヶ月にもわたって九州各地を旅し、東京の新聞に寄稿した旅行記が、この『五足の靴』。その冒頭に書かれたのが、ぼくがこのブログの書き出しに使わせてもらった「五足の靴が五個の人間を運んで東京を出た。五個の人間は皆ふわふわとして落ち着かぬ仲間だ」という一文。
特にこの本をユニークにしている点は、全二十九章の紀行文がすべて匿名で書かれてて、一人称はそのまま「五足の靴」。たとえば、十二章の「大失敗」の書き出しはこう。

五足の靴は驚いた。東京を出て、汽車に乗せられ、汽船に乗せられ、ただ僅に領巾振山で土の香を嗅いだのみで、今日まで日を暮らしたのであった、初めて御役に立って嬉しいが、嬉しすぎて少し腹の皮を擦りむいた

この熊本も彼ら五人づれが旅した町であり、「五足のくつ」と冠した温泉旅館さえあるくらいだから、ここらへんでは案外、知名度のある本なのかもしれません。しかし、ぼくにとっては未知なる書物との嬉しい出会い。まだ読んでいる途中だけど、思い出深い一冊になりそうです。

五足の靴 (岩波文庫)

五足の靴 (岩波文庫)


<美食>

熊本の食は美しい。特に生命力のみなぎった馬肉の赤は、見て美しく、口に入れて美しい! 馬レバーも絶品だけど、なんと言っても「ヒモ」が最高。赤身のサクッとした食感、噛めばジュワーッと溶けだすジューシーな脂身。刺身で良し、炙って良し。
で、ヒモってどこの肉? と、同席していた地元民・・・井手君&テツ(井手君の中学時代からのソウルメイト)は答えられず。あばら骨の間にできるヒモ状の部位、だそうです。どおりで牛ハラミっぽいわけだ。皆さんも熊本に行ったら「ヒモ」喰っちゃってください。


・・・パーティ本番の模様、そして大充実の二日目はまたのちほど〜。

*1:そのかわり、車中からの念がすこし遅れて天に届いたようで、羽田から自宅方面へ向かっていた電車が、あと一駅というところで人身事故に遭遇してしまいました・・・。迂回も大変で、ほんとうに骨折りでした。トホホ。