このエントリは覚えておいででしょうか。その後もトイレタイムのお供には相変わらず解説目録をピラピラする日々なのですが、いろいろと発見があって面白いです。

古書店めぐりは夫婦で (ハヤカワ文庫NF)

古書店めぐりは夫婦で (ハヤカワ文庫NF)

この本もそんなピラピラトイレ探索のなかで出会った一冊。SF以外のハヤカワ文庫って本屋じゃほとんど在庫を置いてないから、こんな面白そうな本が出てるなんて全然知らなかった。ということで、さっそく読んでみました。
アメリ東海岸在住の作家であるゴールドストーン夫妻が、ふとしたきっかけで古書の世界に嵌り、近所の古本屋巡りでは飽きたらず、わざわざ子どもをベビーシッターに預け、夫婦だけでシカゴやニューヨークやボストンへブックハントの旅に出たり、稀覯本(超高額で取引されるレア本)の専門店で一冊10万円近い本を躊躇なく買うようになったり(外食を10回抜けば・・・と、皮算用するあたりがリアル)、世界的なブックオークションや古書市に参加したり・・・と、ズブズブのブック・ジャンキー化。そんな行状を詳細にレポートしたのが本書。
夫妻は古書知識ゼロの状態からコレクターの道に踏み込んでいるので、彼らがその道行きで出会った専門用語や知識を、読み進めながら一緒に学べるのはグッド。なおかつ、彼らが主なターゲットにしているのは所謂「モダン・ファースト(現代作家の初版本)」なので、耳馴染みの良い本がたくさん紹介されてる上に、ヘミングウェイフィッツジェラルドやトウェインの影に隠れて日本ではまともに紹介されていない作家たちや知られざる作品の勉強にもなりました。また、文学史上の大名作が必ずしもコレクター市場の評価に結びつかない・・・という点は、勝手知ったる中古レコード業界とも共通してますね。
あと古書店や古書バイヤーを実名で紹介するだけでなく、夫妻に冷たい接客をしたイヤな店員だってもちろん実名で告発してる点は痛快。一方、海外のレコード屋でもよく見かける中古ディーラーたちのティピカルなファッション(ジーンズかサイズの合わないカーキのコットンパンツ、チェックのシャツ、もじゃもじゃのあごヒゲ、薄くなりかけの髪を長いポニーテールにしてる)を小馬鹿にしたように詳述したり、自分たちを"良心的なコレクター"として棚に上げ、投機的なコレクターや儲け主義のディーラーを一方的に批判するなど、いささかハナにつく箇所もあるんですけど、まま、おおむね面白く読めたかな。
そうそう、この本の主なエピソードは1993年から始まるので、インターネットが登場しないんです。イエローページや手紙、オークションカタログを駆使しつつ、足で稼いで古書探索に精を出す夫妻の姿は、今となっちゃ前時代的といえるでしょう。二人が出会った本は値段やコンディションまでしっかりと書かれているけれど、今の相場とは相当な誤差が生じている可能性もあります。それでもなお、この本が楽しく読めたのは、どんな時代であれ、モノに嵌る苦労は同じ、蒐集の楽しさは普遍だからでしょうね。

邦訳出版は1999年。もしも『レコード・バイヤーズ・ダイアリー』執筆前に出会ってたら、ずいぶん影響を受けていただろうなーと思った次第。


旅に出ても古書店めぐり (ハヤカワ文庫NF)

旅に出ても古書店めぐり (ハヤカワ文庫NF)

続編も出てました。なんなら、安田謙一&イレメご夫妻にこんな本を出してもらいたいです。