バーナード・マラマッド『マラマッド短編集』読了。
翻訳はラニアンやラードナーの紹介者であり、落語調と呼ばれる独特の翻訳文体で知られる加島祥造さん。最近、柴田元幸さんの編&翻訳でSWITCHから出た『喋る馬』には、この短編集とかなり重複した作品が収録されている。Coyote誌に連載形式で掲載されていた柴田訳版の何篇かを先に目にしていたのだが、大好きな加島さんの翻訳が出ていると知って、迷わずこちらを先に手に取った。
たとえば、ニューヨークの下町で小さな靴屋を営むポーランド人移民のフェルドが、店の前でよく見かける苦学生と自分の娘を結婚させようと画策する「最初の七年間」といった作品は、加島さんの文体とうまくはまって、物語のペーソスを格段に色濃くしている。*1
自身も移民二世であるマラマッド作品の主人公は全員ユダヤ人で、ユダヤとしてのアイデンティティが宿命的に彼らの生活を困窮させ、出世を拒み、恋愛を阻害している。彼らはそうした出自に対する、一種、怨念めいた感情を抱えて生きている。日本人のぼくらからは今ひとつ実感しにくい部分はあるけれど、マラマッドは偏見や差別に対する思い、不幸にからめとられてしまった個人の問題を、誰にでも共感できるような、親しみやすく、ちょっと笑えて、しんみりできるようなストーリーへ見事に転科している。そしてその不幸な境遇から抜け出すための方法をそっと示してくれる。また地に足の付いた物語が読み進めるうち、突然ファンタジー異世界的な色彩を帯びたりする話も多く、独特で、面白い。
86才で長野県の伊那谷に独居し、タオイストとしての生活を体現しているという加島さん。翻訳アンソロジーも何冊か出ているみたいだけれど、ここはぜひクリスティー、マクベイン、ラニアン、マラマッド、ラードナー、フォークナー、ヘミングウェイ、トゥエイン作品の翻訳からチョイスしたアンソロジーを、ぜひどこかから出してもらいたいと、待望している。

*1:加島訳『マラマッド短編集』は残念ながら絶版。書名にリンクしたアマゾン・マーケットプレイスなどで古書を購入するか、図書館などで探せば簡単に見つかると思います。