論より証拠、ロン・ウッド。

連休なんてATMの手数料が上がるだけの迷惑な期間でしかないぼくにとって、ゴールデン・ウィークはおろか、長期連休ならではの行楽なんてことにもまったく縁はありません。
特にぼくの住んでいるエリアは、ゴールデン・ウィークにもってこいの観光地としてメディアに紹介されることも多く、人も車もこの時期はやたら増えるばかりだし、近所のマクドナルドで「コーラ/食う(コーラ飲んで、ソーセージエッグマフィンを食う)」のさえ、ひと苦労なんであります。
でもね、さっき「コーラ/食う」からの帰路の話なんですが、海岸沿いの歩道を、妙齢の、しかもかなり美しい女性(日テレの葉山エレーヌのようなハーフ美女)が自転車で走ってきたんですが、向かい風でスカートの前がまくり上がるのをいっさい押さえることもなく、パンツ丸出しで堂々とすり抜けていったのにはビックリ。ひょっとしてそういうご趣味の持ち主だったのか、それともなんらか別の理由かは分かりませんが、彼女の美貌も相まって、ゴールデン以上の幸楽感でしたね、ハイ。

とまあ、そんなドーデモいい話(個人的にはドーデモよくない話)はさておき、コーラを何度もおかわりしながら読み終えた一冊の本を紹介させていただきたいと思います。
ぼくの尊敬するロック漫筆家・安田謙一さんと漫画家・辻井タカヒロさんがこのたび出版された『ロックンロールストーブリーグ』であります。
2002年から現在も続いている『CDジャーナル』誌の名物連載(一般的な「シデジャ」読者にとって"名物"かどうかはともかく俺にとっては)をまとめたこの本。読み終えるのがとにかくもったいなくて、しばらくは夜毎の晩酌のようにチビリチビリ読んでたのですが、祝日のマクドナルドにジューマンする「ワレワレは朝食こそマックで軽く済ませてるけど、これから沼津までドライブして、お昼には市場の食堂でキンメダイの煮付け定食とか食べちゃうんだもんね」的オーラに対し、妙な反抗心を「メラメラ(スパイダースのヴァージョンでもヒッピー・ヒッピー・シェイクスでもなく、クレイジーケンバンドのヴァージョンで)」と燃やしてしまい、最後まで一気に読んでしまったのですよ。徒歩歩。
でも、さすがは八年以上の長期連載。厚さもさほどではなく、文字のポイント数もけっこう大きめなんで、アッという間に読めてしまうんじゃないかと畏れてたんですが、なにせ八年といえば、三十二歳だったぼくが四十歳(今年本厄)になっちゃったわけですからね。文章の中に織り込まれている様々なキーワードやエッセンスにも時の重み(の、ようなもの)が加わって、目はドンドン読み進めようとするのに、ページをめくるスピードがどんどん落ちていくという、なんとも不思議な体験をしました。
その体験から感じたことを非常に侘しいぼくのボキャブラリーで解説するならば、それはいわゆる総合小説(村上春樹が言うところの…いろいろな世界観、いろいろなパースペクティブをひとつの中に詰め込んでそれらを絡み合わせることによって、何か新しい世界観が浮かび上がってくる)って概念がもしも存在するのなら、安田さんの書く文章は"総合エッセイ"のひとつの完成形じゃないか? と。
デ・パルマの「キャリー」とドクター・ジョンの『ガンボ』が養豚場というキーワードでリンクできることを、トリヴィアとしてだけではなく、その結びついた瞬間のワクワク感そのものを、これだけ楽しく語れる文筆家がこの世に何人いるだろうか? と。

安田さんはまえがきで<ロック漫筆家と自分で名乗っておきながら、そのニュアンスをうまく説明できなかったけれど、この本がまとまったことで「ロック漫筆」とはずばりこういうものだ、と言えるようになった(要約)>という具合に書いています。
でも本来<ずばり言う>ってのはそういうことじゃないですよね。たとえばプロ野球選手を<野球を職業としているスポーツ選手>と言うこと、冷蔵庫を<食べ物を冷やして保存するための機械>と言うこと、こういうのが一般的には<ずばり言う>ってことだから。

たとえ安田さん御自身が、八年に渡って書き、200ページ強の単行本としてまとめることで、ようやくずばりと説明ができるようになったとしても、読者であるぼくたちがそう簡単にずばりわかった気になっちゃいかんと思うわけですね。
三輪車にまたがり、ビリー隊長のキャンプのように険しい山(ビリー・ザ・マウンテン)を登るがごとく、キコキコと読み進めていくうち、自分の中にある感覚とか知識、そして自分の中に無い感覚とか知識さえ、安田さんの<総合エッセイ=ロック漫筆>によってビビビビ〜ンと刺激され、ロックをロールしたくなる...連載50回記念で安田さんが行った<50ドルを持って町に出る>ような行楽に出かけたくなってしまうはずです。
ぼくもいわゆる本業の怪しい<総合事業者>のひとりという自覚がありますし、安田さんの足跡をしっかり追いつつ(三輪車で)少しでも距離を縮められるようにしたいなと密かに思う次第です。

閑話休題

ちなみにぼくは安田さんの神戸のお宅へ二度ほどお邪魔し、一度は宿泊までさせていただいたのですが、せっかくの機会なので、二回目の訪問時に起こったある出来事を紹介したいと思います。これはmixiに日記としていちど書いたもので(2007年3月28日付)このブログでは紹介してなかったエピソードなんですが、以下その転載。

先日、関西出張に行った折、ロック漫筆家の安田謙一さんと一緒にごはんを食べたんですが、安田さんオススメのモツ鍋屋へ向かうため、路線バスに乗ったんですよ。
六甲駅前で出発を待ってたら「ミズモト君、アレちょっと見て!」 と、安田さんが運転手の方を指さし、興奮した調子で、でもボクにしか聞こえないような小さい声で叫びました。料金箱の上にちょこんと乗せられた運転手の帽子の名札には平仮名で…


たいらひとし


ぼくらふたりはほぼ同時に運転手席周辺を見回し、プラスティックのネームプレートを探しました。 そして乗降口の上で発見した<たいらひとし>さんのネームプレートには漢字で...


「平仁」


まことに遺憾に存じます。そして植木さんのご冥福をお祈りします。

植木等さんの命日が2007年3月27日なので、この出来事がいかに凄いタイミングで起きたか、お分かりになるでしょう。もちろん『ロックンロールストーブリーグ』には未掲載ですが、同時期に録音され、惜しくも収録されなかったアウトテイクの一曲として、勝手にぼくが記録しておきたいと思います。

さて、最後に付け足しみたいに書いちゃうのは申し訳ないのですが、そんな安田さんに「辻井タカヒロになれないから、安田謙一をやっている」とまで言わしめた、辻井さんのマンガも素晴らしいです。安田さんが1ページ半かけて文章化したエッセンスをさらに増幅し、違う角度から二度おいしく笑わせてくれるそのセンス。彼のチカラが加わることで、この本の<総合エッセイ>としての完成度を倍増させているのは間違いなし。

できることなら今すぐ新幹線に飛び乗って、安田さん(と辻井さん)に会いに行きたいと思ってしまった、憲法記念日の午後でした。