パヴァーヌ(おごそかでゆるやかな二拍子の舞踊)

最近あらためてハマってるエヴァ……もちろんエヴァンゲリヲンではなく、ビル・エヴァンスについて一席。

ビル・エヴァンスは母親がロシア系の移民でした。青年期にはスクリャービンラフマニノフといったロシアの音楽家たちから強い影響を受け、プロの演奏家になったあとはロシアへの演奏旅行をたびたび熱望していたのだけれど、最初のチャンスはドラッグがらみの健康問題でふいにし、二度目のチャンスを自分自身の死によって失いました。*1
政治情勢の違いもあって、現在のように隣町へ遊びに行くような感覚で訪れることは難しかったにせよ、北欧あたりまではしょっちゅう演奏に行く機会があったので、ついでに足を伸ばせば無理な話じゃなかった気がするんですよね。
行きたくても行けない場所/行けなかった場所って、誰の人生にも存在すると思うけれど、だからこそ、なにか別の、永遠に語られることのなかった理由をついつい想像してしまいます。


クラウス・オガーマンの流麗なオーケストレーションと共に、スクリャービングラナドス、バッハ、ショパンの曲などを演奏したアルバムが『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』です。
ぼくはこのアルバムを二十五年以上探し続けて、ようやく今年手に入れました(エヴァンスの十八枚組CD-BOX『The Complete Bill Evans On Verve』の収録作品として)。

このアルバムのことは、坂本龍一さんのラジオ番組「サウンドストリート」へデヴィッド・シルビアンがゲスト出演したとき、彼の愛聴曲としてこの作品に収録されている「パヴァーヌ」を紹介したのがきっかけで知りました。一九八四年のことです。当時十五歳のぼくはヒップホップやソウルなんかを左耳で聴きつつ、教授の影響で後期ロマン派からフランスの印象主義〜つまりラベルとかドビュッシー、そして「パヴァーヌ」を作曲したフォーレなんかを右耳でかじっていたこともあり、ビビッときてしまったのですね。イッチョマエに。

ずいぶんあとからわかったことですが、この『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』は、正統的なエヴァンス・ファンにはいわゆる"イージー・リスニング"として軽く扱われていて、値段はそんなに高くないんだけど(人気がないせいで)あまり見かけないという、入手が一番めんどくさいタイプのレコードなのでした。逆にCDは何年か前に廉価版(千円)でリリースされたのが、今じゃプレミア付いて売られてるというのも、ね。
まあ、いろいろと偉そうに書いておきながら、「結局オリジナル盤を手にいれたわけじゃないのかよ」というツッコミは必至の、実はしまらない話なのですが、でもこのまま<買いたくても買えなかったレコード>になるのはイヤなので、これからものんびり探すつもりです。
もしお値頃な価格でこのレコードを見かけた方はご一報……は入れなくていいので、ご自分でぜひ購入して聴いてみてください。

*1:ピーター・ペッティンガーの『ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像』で勉強しました。