勇気ある追跡

ピザでも焼き上げるかのように軽々と、ほぼ年に一本のペースでコンスタントに映画を作り続けているコーエン兄弟。今年の新作『トゥルー・グリット』が全米でクリスマス公開。チャールズ・ポーティスの同名小説が原作で、一八八〇年代のアーカンソー州が舞台。父親を殺された娘(十四歳)が腕の立つ保安官を雇い、仇を討ちに行くって……いかにもコーエン兄弟の大好物&得意そうなエレメントが詰め込まれた物語です。
で、この作品には同じ原作を元にして作られた映画『勇気ある追跡』があって、ジョン・ウェインが保安官のルースターを演じ、念願のアカデミー賞主演男優賞を獲得したことで有名です。
このウェイン版をコーエン兄弟がリメイク……と紹介しているパブリシティを目にするんですが、厳密に言うと違うんですね。ポーティスの小説を再映画化した、と言う方がいい。ちなみにこの原作小説は映画公開に合わせて六九年に早川書房から邦訳され、現在は絶版。入手は困難で古書店でもほとんど見かけません。



一応、予習としてウェイン版の方も見ておきたいと思ったんですが、近所のビデオ屋には在庫なし。たまたま原作本を図書館のデータベースで探してたところ、DVDを発見。さっそく借りてきましたよ(小説は置いてなかった)。普段ティピカルな西部劇をほとんど見てないし、ハッキリした評価基準が自分の中にあるわけじゃないのですが、想像以上にオーソドックスな作品だったので驚きました。古いとはいえ六九年の公開ですからね。その年のアカデミー賞作品賞は『真夜中のカーボーイ』、前年にはキューブリックが『2001年宇宙の旅』を公開していることを考えれば、当時の観客にとっても決して斬新な作品ではなかったはず。見終わったあと、ひょっとして製作年度を勘違いしてたのかと思って、パッケージを見直してしまったほどです。
ウェインと一緒に旅するテキサスレンジャーの役がビーチ・ボーイズと縁の深いミュージシャン、グレン・キャンベルだったり、デニス・ホッパー(オーエン・ウィルソンそっくり!)が端役で出てたりするので、当時席巻していたアメリカン・ニュー・シネマの風にも多少は目配りしてるのかな。まあクラシックでありながら、経年劣化が認められる作品だからこそリメイクする意義が生じるわけですけどね。



父の復讐を果たそうとする少女、マティを今回演じたヘイリー・スタインフェルドのコスチュームを見れば、原作のスピリットを踏襲したとコーエン兄弟が主張する意味がよくわかる。左が原作本の表紙で、まんなかがヘイリーちゃん。そのまんまですね。ちなみに右がウェイン版で同役を演じたキム・ダービー。彼女は当時二十二歳、既に結婚と出産も経験してたというし、おまけにウーマンリブ運動にも熱心だったらしい。アメリカのマチズモを象徴していたウェインと現場でたびたび衝突してたとのエピソードもあって、それゆえこんな闘士風のショートカットだったんでしょうか。

それでもこの『勇気ある追跡』を見たあと、コーエン兄弟版の予告編を見ると、ウェイン版をオマージュしたようなカットがいくつか見受けられました。やはり見ておいてよかった。原作小説はまだ手に入ってないので、早川書房が来年春の公開に併せて復刊してくれたらいいなあ。



復刊といえば、『バーン・アフター・リーディング』の次に公開された『ア・シリアス・マン』は劇場公開はおろかDVDも未リリース。こっちもなんとかしてください。トレイラー見るかぎり、めちゃめちゃ面白そう!