THINK TWICE 20200927-1003

10月1日(木) 三体

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9月は矢のように過ぎ去ってしまい、2020年も残すところあと3ヶ月ですか。なんとも恐ろしいことです。

週末から怒涛の取材ウィークに突入するので、その下ごしらえを進めたり、そのほかの細かい仕事にも時間を取られたりで、今週はなかなかnoteに気が回りませんでした。

とはいえ『テネット』を観に行って、それから2、3日は逆行モードが抜けなかったし(観た人ならわかるはず)、NetflixやPrimeVideoで相変わらずドラマや映画は観てるし(とうとう『ザ・ボーイズ』にも手を出してしまった!)、劉慈欣の『三体 II』上下2冊も読破したし───結局のところ、実働よりインプットのほうが長いっちゃ長い生活なので、普通の勤め人の方よりはだいぶのんきに過ごしているのかな。

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オバマザッカーバーグが英訳版を読んで激賞したという『三体』。総発行部数は2,900万部(中国だけで2,100万部)という大ベストセラーで、アジア人作家の作品として初めて、SF界で最も権威あるヒューゴー賞を受賞した長編小説です。宇宙の彼方からやってくる三体人の地球侵攻計画をきっかけに、地球上のすべてのリソース(金、武力、テクノロジー)が与えられ、またすべての法律を超えた存在として行動する自由を与えられた存在=面壁者(ウォールフェイサー)が選ばれ、三体人と全面対決する───という途方も無いスケールのSFエンターテインメント。

まだ第三巻が発売前なので感想は書きませんが、ところどころで無茶苦茶だなあ……と呆れながらも、けっこう楽しんで読んでいます。

で、何日か前、原作者の劉慈欣について書かれたある記事がネットで目に留まりました。

https://www.epochtimes.jp/p/2020/09/62683.html

ソースが大紀元1 だから、注意しておかなきゃいけない報道ではありますが、もともと劉慈欣の『ニューヨーカー』のインタビューが元になっているので、信憑性は高いかなと思います。

1 中国政府が大使館のホームページに〈邪教〉〈中国のオウム真理教〉とわざわざ紹介している宗教団体"法輪功"が出版する新聞。政府から激しく弾圧されているため、常に中国共産党に対して敵対しており、過激な記事が多い一方で、ウイグルチベット問題などについても積極的に報道している。

英語版のウィキペディアにも、彼の政治的スタンスとして、同じ『ニューヨーカー』の記事を引用する形でこう記されています。

"劉氏の政治的見解は中国政府のそれとほとんど一致している。彼は2019年の『ニューヨーカー』のインタビューで、中国政府が実施している新疆ウイグル自治区での再教育キャンプやひとりっ子政策などに対して「断固として、また明確な」支持を表明している"

https://www.youtube.com/watch?v=0TDII5IkI3Y

彼の『流浪地球』という短編小説は、中国共産党のお墨付きを後ろ盾に、莫大な制作費(54億円)をつかって映画化され、中国国内だけで約714億円という、にわかに信じられない興行収益を上げています。2

2 この映画はNetflixで『流転の地球』というタイトルで日本でも視聴可能。たしかにセットやCGには力が入っていましたが、こちらもストーリーはかなりとんでもないし(太陽の暴走で危機的状況になった地球そのものにエンジンをつけて、太陽系の外に動かして脱出する!)、そこかしこに「ん? あれはどこかで見たような?」と思うキャラクターやアイテムやシーンが登場するので、予算の割に安っぽい印象が否めない作品でした。M・ナイト・シャマランの映画が好きな人は観るといいかもです。

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たしかに『三体』を読んでいても、そういった思想に直結しそうなフシは少なからずあります。また人生を変えた5冊の小説のなかにジョージ・オーウェルの『1984を挙げている彼に、日本のメディアがビッグブラザーによる厳しい監視&管理社会は中国の体制と類似しているのでは?」と挑発的に質問を投げかけたときも、「昔の中国より今はずいぶん開放的になっている。街のあちこちに監視カメラがあるじゃないか、と言うのなら、アメリカやイギリスだって一緒だろう」と反論しています。

https://globe.asahi.com/article/12590075

劉慈欣は今も北京在住で、中国の体制に対する批判的な意見があっても、それを公言するわけにはいかないでしょう。今や国家を代表する作家となった彼が口にする言葉の、どこまでが本心かはまったくわかりません(=本音を漏らさず、秘密を心のなかに隠すことが最高のセキュリティである───これは小説『三体』でも大きなテーマになっている)。

TikTokやファーウェイが米国市場から締め出されようとしている一方、映画『ムーラン』でウイグル問題に足を突っ込んだディズニーに猛批判が集まったり、アメリカ(というかトランプ政権)と中国政府の関係はかつてないほどヒリヒリしたものになっています。そんな状況の中で、Netflixが今回発表した『三体』の制作チームには、ブラッド・ピット率いる制作会社プランBエンターテインメントやスター・ウォーズも監督したライアン・ジョンソンあたりも名を連ねているので、Netflixという組織に対してだけでなく、彼ら個人にも飛び火しかねないのです。

しかし、ウイグル問題はよくわからないことが多すぎる。かつてのチベットを巡る問題のときは、BLMのような世界的なイシューになりましたが(ビースティ・ボーイズの今は亡きMCAを中心とした、チベタンフリーダムコンサートなどを覚えておられる方も多いでしょう)、中国側も同じ轍は踏まないぞ、とばかりに強烈な報道統制を敷いていること、またウイグルが中国とイスラム圏の交差点的な地域であることが、専門家たちさえ事態の把握を一層難しくしています。

https://bunshun.jp/articles/-/9651

ただ、こうした出来事全体を俯瞰すると、それこそ『1984』や、ヴォネガットの『猫のゆりかご』ブラッドベリの『華氏451のような、ディストピア小説の趣きが浮かび上がり、非常にSF的だなと感じます。

ちなみに『三体』には日本人のキャラクターも登場するのですが、ぼくの根拠のない予想を書いておくと、たぶん菊地凛子がやる(笑)。


10月3日(土) THINK TWICE RADIO VOL.5

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THINK TWICE RADIO VOL.5 - New Songs & More issue -
TALK & MUSIC SELECT BY AKIRA MIZUMOTO

今回、紹介した楽曲は次のとおりです。

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Dent May - I Could Use A Miracle
Washed Out - Too Late
klark sound - Dreamer
Yellow Days - The Curse (feat. Mac Demarco)
Rapallo - Fine Living
Emahoy Tsegué-Maryam Guèbrou - The Story Of The Wind

ほんとうはもうちょっと流したい曲もあったんだけど、前回みたいに1時間近い番組を作ると、編集も下準備もだいぶ労力がかかってしまうので、今回はさくっと短く切り上げました。

https://www.mixcloud.com/akiramizumoto/think-twice-radio-5-new-songs-more-issue/

ぼくのおしゃべり込みで聴いていただけるmixcloud版以外に、番組中におかけした曲をSpotifyでプレイリスト化して、音楽だけを聞いてもらえるようにもしました。

紹介したアーティストの別の楽曲が聞きたい、自分のお気に入りやプレイリストに加えたい……など、楽しみ方が広がったと思いますので、Spotifyのプレイリスト版"THINK TWICE RADIO"もどうぞよろしく。

https://open.spotify.com/playlist/4H0IiOjreckJ18E9O4Gadj

すでに選曲の方針も決めているので、年内にもう一回くらいは新しいエピソードを更新できると思います。お楽しみに。