熊本旅行記の途中ですが、こちらのエントリーを先にアップします。

ザ・クランプスのヴォーカル、ラックス・インテリアが2月4日、60歳で亡くなりました。ザ・クランプスがどんなバンドで、ラックスがどんな人だったかは書きません。もっと個人的な思い出を書きます。
ぼくの音楽的語彙は大学在学中に出会った、多くの友だちによって広がりました。自分の好奇心だけでは接触する可能性がきわめて低かった、さまざまなジャンルの音楽を、そうした耳利きの友だちから教えてもらいました。たぶん、ぼくが友だちに教えた音楽はそれらに比べれば微々たるものだったと思うし、そんな友だちをさしおいて、自分が音楽を生業の一部として暮らしていることに、ちいさな気恥ずかしさを感じることもあるのですが、それはまあさておき、ぼくにとってザ・クランプスはそうして知ることになった音楽・バンド・アーティストの、代表的な存在といえます。
今もぼくが持っている彼らのレコードは写真のたった三枚だけですが、友だちがその何倍も彼らのレコードを貸してくれたし、貸してくれなくても彼らの部屋で聞かせてくれたり、電話越しに聞かせてくれたりしました。インターネットやCD-RやMP3など無かった頃、友だちと音楽を共有するということは、つまりそういうことでした。彼らの部屋の床に転がっていた雑誌を拾い読みしたり、缶ビールを飲んだりしながら、ぼくらはザ・クランプスや、そのほかたくさんの音楽を聴きました。彼らが何年に結成したとか、どういうきっかけでデビューしたとか、ほかに何枚のレコードが出ているとか、今じゃ検索ボタン一発で手に入る情報なんて、ジャケットに書かれてる以上のことはほとんど知らなかったけど、そんなの別にどうでもよかった。
大学を卒業してから後、ぼくは「モンド・ミュージック」の梁山泊である"マニュアル・オブ・エラーズ"というレコード店で働くことになるわけだけど、1993年に発売されたモンド・ミュージックのバイブル的マガジン「RE/SEARCH #14 : Incredibly Strange Music, Volume 1」で、最初のチャプターに登場するのが、誰あろうザ・クランプスのラックス・インテリアとポイズン・アイヴィー夫妻でした。リブロポートからその後出版された「モンド・ミュージック」(以降「モンド本」)を読んだ人なら知ってると思うけれど、日本におけるモンド・ミュージックは、いわゆる渋谷系文化の源流ともリンクする、サウンドトラックやソフトロック研究からの文脈で語られることが多いと思います。モンド本の影響があまりに強かったことで、今もそういう見方をする人が多いかもしれません。
たしかにそういう流れも無視できないんですけど、ぼくは当時から少なからず違和感を感じていて、それは結局のところ、先の「RE/SEARCH」誌に取り上げられたラックス&ポイズン夫妻とか、おなじ号に登場するノートン・レコーズやファントム・サーファーズといったサーフ〜ガレージ系の人たちの趣味や収集成果の方が、圧倒的に「Incredible」で「Strange」な気がしたし、モンド本よりも先に、そうしたいかがわしい音楽の魅力を彼らが教えてくれていたからだと思います。ガレージ・パンクやサーフ・ロックに含まれるエコー成分が宇宙感覚と直結して、ジョー・ミークやエスキベル、そしてペリー&キングスレイみたいなモーグ・サウンドを再発掘し、キャバレー・ミュージックやバーレスク・ミュージックの発掘が、マーティン・デニーやアーサー・ライマンのようなエキゾティック・ミュージックの再発見に繋がった・・・と理解する方が、ぼくにははるかにしっくりきました。その多くは、友人たちがザ・クランプスのおもしろさをより深く伝えるためのサブテクストとして、ライノのようなおもしろいレコードレーベルの存在を紹介してくれ、その後「ラウンジィ・ミュージック」と呼ばれるたぐいの音楽も、そういうレーベルから発売されたユニークなコンピレーションアルバムを通じて、ひとあし先に聴いてたからなのです。*1
日本に「RE/SEARCH」と同じアプローチで"Incredibly Strange Music"を紹介したのは、ジェロのPV監督でおなじみの宇川直宏さんで、1992年、彼が自分のレーベル「MoM 'n' Dad」からリリースしたハナタラシのライヴ盤に、モーグ物の音源をボーナストラック(?)として18曲収録したのが最初でしょう。ディック・ハイマン、モート・ガーソン、エレクトロニック・コンセプト・オーケストラ、ヒューゴ・モンテネグロ、カル・ジェイダーなどなど、今見てもおいしいところを網羅してますね。ぼく自身がどういうタイミングで買ったのかは記憶が定かじゃありませんが「RE/SEARCH」14号の発売が1993年、マニュエラのオープンもおなじく1993年なので、このCDはそれらに先行するカタチでリリースされてたんだな。大学の三年くらいから、東京近郊で開催されたボアダムスのライヴやヤマツカさん関連のライヴはとにかく行き倒してたので、このCDも自然に手にしたはず。その頃には渋谷のパーフェクト・サークルとか井手靖さんが東北沢でやってた「ファンタスティカ」あたりなら、モーグ物のレコードはもう手に入ったはずで・・・うーん、この辺は自分の記憶だけじゃ心許ないな。時系列もかなり怪しい。ただ、ハナタラシやボアダムスも大学時代の友人たちと共有した音楽やレコードの代表格なので、その頃の話はまた別の機会に。
また、ザ・クランプスとの出会いは、同時にファーストシングル「GRAVEST HITS」のプロデュースを担当したアレックス・チルトンと繋がり、アメリカのカレッジ・ロックやオルタナティヴ・ミュージックに繋がり、ティーン・エイジ・ファン・クラブやパステルズといったグラスゴー系のバンドに繋がり、はたまた"NO WAVE"とかジョナサン・リッチマンに繋がったりもするのですが、いいかげん疲れてきたので、今日はこの辺で終わります。
なにはともあれ、みなさんもこのスンばらしいザ・クランプスの演奏を聴いて、訃報で彼のことを知った人もラックス・インテリアのあの世での活躍を祈ってほしいな。


[http://www.youtube.com/watch?v=R2i-g8ZycNU:movie]

1978年、カリフォルニア州の精神病院で行ったライヴより「The Way I Walk」。

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*1:たまたまそういった音楽(の一部)が、細野さんやヤンさんのような音楽家の原体験とも大きく重なり、(細野さん達を敬愛していた)モンド本の編集チームがビーチ・ボーイズの「スマイル」のような、モンドでもStrangeでもない、純粋に"Incredible"な音楽とひとからげにまとめてしまったのは残念だったナー。なんつって。