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もしも、夫がこうして毎日働きに外に出て行かないで、家族が生活してゆけるものだったらいいのになあ。彼女は、自分たちが太古の時代に生まれていたとしたら、それが普通のことだったのにと思う。
男は退屈すると、棍棒を手にして外へ出て行き、野獣を見つけると走っていって襲いかかり、格闘してこれを倒す。そいつを背中に引っかついで帰ってきて、火の上に吊す。女子供はその火の回りに寄って来て、それが焼けるのを待つ。もしそういう風な生活が出来るのだったら、その方がずっといいに決まっている。
ということで、二日前に老衰で亡くなった、庄野潤三さんの代表作「プールサイド小景」より引用しました。
上のジェレミー・スコットのエントリーを書きおわったあと、久方ぶりに読み直してたこの小説のなかに、上記した箇所が出てきた。嘘みたいだけど、ほんとだから面白い。
それにしても。この庄野さんや安岡章太郎、吉行淳之介、遠藤周作、小島信夫らを指して、俗に「第三の新人」などと呼びますが、第一次の戦後派(野間宏、椎名燐三など)や、第二次戦後派(堀田善衛、中村真一郎ら)の作家たちの作品はほとんど一冊もモノしたものがないってのはどうしたもんか、と。
特に野間や椎名は教授の父君である編集者、坂本一亀と密接に仕事をしていた人たち。ミシマでもカワバタでもコーボーでもない、純文学の鉱脈にはまだまだ掘るべき作品が眠っているかもしれない。純文レアグルーヴの世界を今後ひっそりと探求してみようと思います。