先週土曜日のこと。となり町の片瀬公民館で福祉バザーや縁日に混じって古本市が立つと知り、いそいそ出かけてみました。初めて行く場所だったし、手元にあったビラだけでは雰囲気や規模もまったくイメージがつかめなかったので、とりあえずスタート時間の午前10時きっかりに到着してみた。
しかしいざ着いてみると様子がおかしい。それというのは、古本市の立つべき場所(正面駐車場)で、オープニングセレモニーが執り行われていたのです。
近所の小学生の鼓笛隊演奏や公民館長の挨拶が延々と続き、それらすべてが賑々しく華々しく終了したのち、ようやくボランティアの皆さんの手によって古本たちが陳列されるというダンドリになっていました。
そんなことチラシには書いてなかったベ!と藤沢訛りで怒ってみても、もう遅い。古くからある商店街沿いにあるとはいえ、基本的に公民館の周りはお寺や民家ばかり。時間をつぶせそうな店もなく、それから約四十分にわたって準備が済むのを待つことに。まあ六年生全員参加による鼓笛隊はけっこう演奏も上手で、レパートリーもスター・ウォーズやインディ・ジョーンズだったりして、それはそれで楽しめたんですけどね。保護者面して、iPhoneでビデオ撮ったりしてみた。
で、その鼓笛隊が去っていったあとは、のんびりと並べられていく古本たちを、車止めに腰掛けながら遠巻きに眺めていたわけです。

さて、折りたたみの会議テーブルに六、七割ほど陳列が済んだ頃でしょうか。ゆるみきっていた空気の中にピリッと鋭い電流のようなものが走ったかと思えば、どこからかオカアサンオバサンオバアサンたち・・・すなわち近所のアマゾネス軍団と、彼女らに引き連れられたコワッパの集団が音もなく現れ、係員の制止もどこ吹く風でエサ箱(古本)に猛然と飛びかかった!!!!
その無慈悲かつ留保なく非情きわまりない圧倒的かつ驚異的なアマゾネスの攻撃性に圧倒され、ぼくはしばし呆然としてしまいました。約一分ほど経ってようやく我に返り、あたふたと売り場に駆けつけ、彼女らの一様に肉厚なカラダの隙間から、痴漢とまちがわれないように細心の注意を払いつつ、なんとか本の山へ手を差し込んでみたり、足下に置いてあった未陳列の在庫入り段ボール(カバーのないボロボロのてんとう虫コミックスなどが入ってる)に群がった小鬼たちのアタマを踏んづけつつ、すこしでも多くの分け前を得ようと決死の覚悟で立ち向かった次第。
ちなみにこの古本は単行本やムックは一冊50円、文庫本が20円、児童書が10円の一律価格。と、ここでどういうワケか、午前11時の正式オープン直前に係員のひとりが「購入はお一人様三十冊まで」という販売規制を宣言。なるほどこれは先ほどのリヴェンジ。あえなく蹂躙された事に対する報復行為に違いありません。すでに文庫本を百冊ちかく確保していたおばさんがレジで一悶着を起こすなど、先ほどまでの至極のんびりした雰囲気は一変。ブック・オフならぬファック・オフ的な緊張感さえ漂いはじめました。
ぼくはその間隙を縫って、なんとかひと通りのチェックを終了。ニュー・ディスカバリーこそなかったけれど、伊丹十三柳原良平山口瞳東海林さだお片岡義男の著書など七冊を収穫。そもそも鬼気迫ったマダムたちが抱えてるのは宮部みゆきとか桐野夏生とか京極夏彦の文庫本だったりするので、ぜんぜん焦る必要はなかったわけですね。お会計はしめて270円でした。
ところで、写真右はその日に20円で購入した東海林さだおの文庫本『ショージ君の旅行鞄』・・・平成六年に出た自選のアンソロジー(旅というテーマが一応の縦軸なんですが、基本的には飲んで食べて寝て・・・と、まあお馴染みのアレです)なんですが、どうです、このブ厚さ。一般的な文庫本で三冊分、ちょっと薄めの文庫なら5冊分はあるかもしれません。もしこれがハンバーガーのパテなら、かなりうまく焼かないと確実に生焼けですよ。土曜日に買ってきてから、お風呂、トイレタイム、仕事の合間、サッカーのハーフタイム、就寝前など、ひたすら読んでいるのですが、まったく読了が見えないどころか、どのページを開いても満遍なく面白いというまさに奇跡の一冊。一応、定価で買ったら一千円するんだだけど、これがたったの20円。ここしばらくはいわゆる国内外のジュンブンの本ばかり読んでたから、まるでベジタリアンの親に育てられた子どもが隠れてこっそりハンバーガーを食べたような充足感!